「固体炭素を燃料に用いた携帯型燃料電池(当研究室で生まれた新しい燃料電池)~リチャージャブル‐ダイレクトカーボン燃料電池(RDCFC)の開発~」
固体酸化物燃料電池(SOFC)の作動温度は800℃から1000℃と高温であることから燃料の多様性が期待できるが、ドライ炭化水素を燃料として用いると炭素析出により燃料極性能が劣化することが知られている。本研究は炭素が析出するという現象を逆手にとって、劣化の原因となる固体炭素を積極的に燃料として利用していることが特徴である。図1に固体炭素を燃料としたSOFC「ダイレクトカーボン燃料電池(RDCFC)」の概念図を示す。炭化水素ガスを熱分解させながら燃料極細孔内に炭素を析出させ、その後、溜め込まれた炭素の酸化反応によって電気エネルギーを取り出すことができる。発電とチャージングを繰り返すことでリチャージャブルなSOFCとして用いることができる。固体炭素はエネルギー密度が高く、携帯型電源としての応用が期待できるとともに、二次電池の充電を熱分解反応で置き換えているため、二次電池に比べチャージング時間を短縮化できる可能性がある。これまで当研究室では、ドライメタンにおいて安定発電可能な燃料極であるNi/GDC(Gd doped CeO2)を用いて固体炭素発電を行なうことに成功しており、現在、燃料極、発電条件およびチャージングガスを検討することで更なる出力密度およびチャージング効率の向上を図っている。
図1 リチャージャブルーダイレクトカーボン燃料電池の概念図
DCFCは当初はとても小さな出力密度しか得られなかったが、近年の努力によって大幅な出力密度の向上と発電時間の長時間化に成功している。ここでは、その成果の一端を紹介する。
図2にRDCFCの繰り返し発電を行ったときの発電サイクル特性を示す。電解質には厚さ0.3mmの8YSZ(8mol% Y2O3 stabilized ZrO2)を用い、燃料極にはNi/GDCサーメットを、空気極にはLa0.85Sr0.15MnO3多孔質膜を用いている。それぞれプロパンを用いて5分間チャージングし、電流密度は80mA/cm²で発電した。各発電において44~52mW/cm²の出力密度で80分程度の安定発電を行うことができた。また、6回のチャージング‐発電サイクルでは少なくとも50時間以上、安定して動作することが確認できた。
図2 RDCFCの発電サイクル特性
(各発電においてC3H8: 50ccm, 5分チャージング, 発電温度: 900℃, 電流密度: 80mA/cm²)
現在、携帯用燃料電池として開発が進められているポンプなしタイプ(パッシブ型)のDMFCと比較すると、現時点でも同等かそれ以上の出力密度が得られており、今後、長期安定性の検証を行なうと共に出力密度を更に向上させることで、新たな携帯用電源としての応用が期待できる。
* M. Ihara and S. Hasegawa , Quickly Rechargeable Direct Carbon Solid Oxide Fuel Cell with Propane for Recharging, J. Electrochem. Soc. 153, A1544 (2006)
「固体炭素(カーボンブラック)を直接燃料としたリチャージャブル・ソリッドカーボン燃料電池(RSCFC)」
固体酸化物燃料電池(SOFC)の作動温度は600℃から1000℃と高温であることから多様な燃料が使用可能であり、本研究においては、固体炭素を燃料として利用していることが特徴である。
当研究室では、二種類のリチャージャブルカーボン燃料電池の研究を行っている。炭化水素の熱分解反応によって析出した炭素をSOFC燃料にしたRDCFCと固体炭素を直接SOFC燃料にするRSCFCを研究している。RSCFC(Rechargeable Solid Carbon Fuel Cell)は固体炭素(カーボンブラック:スス)を電極表面に担持し、900℃で初めて発電に成功した。理想的には炭素燃料をほぼ100%利用可能であり、発電効率が高く、燃料のエネルギー密度が高いことから、現在、家庭や車向けの電源としての応用が期待されている。
RSCFCでは、主な発電反応は炭素の電気化学酸化反応ではなく、炭素のガス化反応により生成した一酸化炭素ガスの電気化学反応である。しかし、電極へのカーボンブラックの供給と集電が困難であるため、出力はまだ低い。現在、燃料極、発電条件および燃料の反応特性を検討することで更なる出力密度の向上を図っている。
「固体炭素の高効率利用と高出力を目指したリチャージャブル‐ダイレクトカーボン燃料電池(RDCFC)の開発」
高い温度で作動する固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、様々な燃料を利用することが可能である。中でも、固体炭素を直接燃料として発電するダイレクトカーボン燃料電池(DCFC)は、理論的に高い発電効率が得られることが知られており、現在も世界中で研究が進められている。しかし、電極反応の進行する電極内部まで固体燃料を効率的に供給することが難しいため、SOFCにおいて直接固体燃料を用いることは容易ではない。そこで、当研究室では炭素を外から供給するのではなく、炭化水素の熱分解を利用して電極内部で炭素を生成させるリチャージャブル・DCFC(RDCFC)を提案している。RDCFCでは炭化水素(気体)として多孔質内部まで燃料を供給し、電極上で熱分解が進行することで、効率的に炭素を供給することができる。
RDCFCはDCFCでは世界トップクラスの出力を誇り、炭化水素の熱分解と発電を交互に繰り返す二次電池のような発電サイクルが可能だ。私たちは、このRDCFCの特徴と固体炭素の高いエネルギー密度を活かし、コンパクトでパワフルなポータブル電源の開発を進めている。
「液体炭化水素を燃料としたSOFC発電の提案~パルス噴射リチャージャブル・ダイレクトカーボン燃料電池 (PJ-RDCFC) ~」
当研究室では、炭化水素の熱分解により析出した固体炭素を直接燃料として利用するリチャージャブル・ダイレクトカーボン燃料電池(RDCFC)について研究・報告を行ってきたが、燃料である固体炭素を析出させるたびに運転停止が必要なため、連続的な発電が困難であった。そこで、当研究室では連続運転可能なRDCFCとして、“パルス噴射リチャージャブル・ダイレクトカーボン燃料電池(PJ-RDCFC)”を新たに提案している。これは、微量の液体燃料をパルス噴射により供給し、この際に熱分解によって生じる固体炭素や水素、炭化水素等を発電に利用するというものである(図3)。PJ-RDCFCは図4に示したような多くの利点があるので、自動車などの移動体用電源への応用が期待されており、燃料にはガソリンのモデル成分としてイソオクタン(i-C8H18)を使用している。
図3 PJ-RDCFCの概念図
図4 PJ-RDCFCのコンセプト