炭化水素燃料直接利用

「ドライ炭化水素燃料を用いた固体酸化物燃料電池の開発」

 炭化水素燃料を水蒸気改質せずに燃料極に供給すると炭素析出による電極劣化が生じ、安定発電は難しい。ドライ炭化水素燃料が燃料極で安定的に動作する燃料極の開発を行っていて、同時に燃料極の反応機構を電気化学的に考察して提案し材料開発の指針としている。

炭化水素燃料を直接燃料とする固体酸化物燃料電池の開発



固体酸化物燃料電池の燃料極反応機構の検討

 SOFCの燃料極には主にNi/YSZサーメットが用いられています。これまでに当研究室では、水素燃料を用いたNi/YSZ燃料極の電極表面で起こっている反応機構について報告してきました。その反応機構のモデル図を示します。このモデルにおいて、電流密度は燃料極酸素活量の1次に比例することを示しました。

固体酸化物燃料電池の燃料極反応機構の検討

 近年、YSZよりも導電率が高く、ドライ炭化水素燃料中でも安定的に動作することが報告されているScSZが注目され、それを電解質および燃料極として用いた研究が進められています。しかし、その燃料極反応機構については、まだ詳しく解明されていません。そこで、本研究では水素燃料を用いたNi/ScSZ燃料極によるSOFCの発電特性を、水素分圧依存性、温度依存性などに着目して調べ、Ni/YSZ燃料極、Ni/GDC燃料極と比較し、Ni/ScSZ燃料極上で起こっているH2の反応機構を検討しています。


「酸素化学ポテンシャルに注目した新規燃料極の開発」

 SOFCは燃料極と電解質、空気極で構成されており、空気極には酸素を燃料極には水素などの燃料を供給して発電する。このとき、以下の図1に示すような反応が進行する。①空気極で酸素が還元されて酸化物イオンになり、②電解質を通って燃料極の三相界面に到達する。③その三相界面で燃料と酸化物イオンが反応を起こし、外部回路に電子を放出することで発電している。

固体酸化物燃料電池(SOFC)の発電原理

図1 固体酸化物燃料電池(SOFC)の発電原理

 当研究室では③で示した三相界面における燃料極の反応機構を提案している【図2】。このモデルでは、三相界面における反応が酸素化学ポテンシャルに大きく影響されると考えられ、燃料極の性能を評価する際の指標にしている。この酸素化学ポテンシャルがどのように変化するかを評価すれば燃料極における反応機構について考察することが可能である。

図2 Ni/YSZ燃料極の三相界面における水素燃料の反応機構

 当研究室で提案している新規燃料極としては、燃料極の酸素化学ポテンシャルに影響を与えるため燃料極に添加物を導入している燃料極を提案している。その作製方法としては、以下の図3に示すようなインフィルトレーション法を主に採用している。具体的には、マイクロピペットで添加剤の元となる前駆体溶液を添加し、高温で焼成することで添加剤を燃料極内に導入している。この新規燃料極と添加剤なしの燃料極の酸素化学ポテンシャルを比較評価することで添加剤の燃料極反応機構に及ぼす影響について検討し、材料開発の指針にしている。

図3 インフィルトレーション法による新規燃料極の作製

●高い炭素析出耐性を持つ新規燃料極の開発を目指して

 炭化水素燃料の使用の際には析出した炭素が燃料極を劣化させるという問題点がある。これまでの研究成果としては添加剤であるプロトン伝導体SZY (SrZr0.95Y0.05O3-a)を添加したNi/YSZ燃料極は炭化水素燃料で問題となっている炭素析出に対する耐性向上に成功している。この研究のポイントとしては、燃料極における酸素被覆率に注目したことである。SZYを添加したことで被覆酸素量が増加し、析出した炭素や炭化水素燃料に対する活性を向上させることができたと考えられる。


「炭素析出耐性の高い新規燃料極開発」

 ペロブスカイト型プロトン伝導体は、従来は電解質材料として検討が行われてきました。これらが有する雰囲気により正孔、酸化物イオン、そしてプロトンをキャリアとする物性に注目し、水素及び炭化水素を燃料とした際に燃料極材料として活用することを検討しています。加えて本研究室では、電極微細構造制御手法の開発に注力しています。電極微細構造を高度に制御することができる噴霧熱分解法、インクジェット式水溶液滴下法といった手法により、電極性能向上、そして詳細な反応メカニズム検討を行っています。


「プロトン伝導体を電解質とする燃料電池」

 プロトン伝導SOFCは発電時に水が燃料極側に生じないことから、水素燃料が希釈されることなく、従来の酸化物イオン伝導SOFCを上回る高効率を実現することができます。既往の研究では、プロトン伝導SOFCには水素しか燃料して用いることができないとされてきましたが、本研究室では「プロトン伝導体BZYのプロトンと酸化物イオンの両イオン伝導性」と「Ni/BZY燃料極のメタン発電に対する高活性」を見出し、併用することで、低加湿条件のメタン燃料でも発電することに成功しました。